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新潟地方裁判所 平成元年(わ)47号 判決

本店の所在地

新潟県長岡市下条町清水田一一八八番地

法人の名称

ミツワ興業株式会社

代表者の住所

同市宮内一丁目一四番一〇号

吉原博

本籍

同市前島町一四〇番地

住居

同市宮内一丁目一四番一〇号

会社役員

吉原博

昭和二一年八月二四日生

右両名に対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官飯塚和夫出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人ミツワ興業株式会社を罰金三〇〇〇万円に、被告人吉原博を懲役一年二月に各処する。

被告人吉原博に対し、この裁判の確定した日から三年間、右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人ミツワ興業株式会社は、肩書地に本店を置き、コンクリート工事や基礎工事の請負等を目的とする資本金三〇〇〇万円の株式会社であり、被告人吉原博は、右会社の代表取締役としてその業務全般を統括しているものであるが、被告人吉原は、被告人会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、売上の一部を除外するとともに、架空外注費を計上するなどの方法により所得を秘匿した上、

第一  昭和五九年三月二一日から同六〇年三月二〇日までの事業年度における被告人会社の実際所得金額が五二三七万一〇五四円あつたのにかかわらず、同年五月二〇日、新潟県長岡市南町三丁目九番一号所在の所轄長岡税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が三四〇万二七〇四円でこれに対する法人税額が八八万二五〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もつて、不正の行為により、被告人会社の右事業年度における正規の法人税額二一五二万〇六〇〇円と右申告税額との差額二〇六三万八一〇〇円を免れ、

第二  同六〇年三月二一日から同六一年三月二〇日までの事業年度における被告人会社の実際所得金額が六二五九万二三四五円あつたのにかかわらず、同年五月二〇日、前記長岡税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が三五九一万四四七二円でこれに対する法人税額が一四四七万一六〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もつて、不正の行為により、被告人会社の右事業年度における正規の法人税額二六〇二万三二〇〇円と右申告税額との差額一一五五万一六〇〇円を免れ、

第三  同六一年三月二一日から同六二年三月二〇日までの事業年度における被告人会社の実際所得金額が二億〇五二九万七四九七円あつたのにかかわらず、同年五月二〇日、前記長岡税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が二六九四万五七二六円でこれに対する法人税額が一〇二五万四二〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もつて、不正の行為により、被告人会社の右事業年度における正規の法人税額八七四四万九六〇〇円と右申告税額との差額七七一九万五四〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示全部の事実について

一  小池誠毅(二通)、平沢哲志(四通)、長井美恵子(昭和六三年三月二日付け、同月四日付け、同年四月七日付け、同年五月一七日付け、同月一八日付け、同年六月三日付け、同月一六日付け)、室橋裕子、吉原文子、清水好文(二通)、斎正博(同年三月四日付け、同年五月一〇日付け、同月一七日付け)、吉原光子(同年六月四日付け)の大蔵事務官に対する各供述調書

一  検察事務官作成の同年三月八日付け捜査報告書

一  長岡税務署長森村貞次郎作成の証明書

一  大蔵事務官小林治伸作成の売上高調査書、外注費調査書、給料調査書、厚生費調査書、減価償却費調査書、減価償却超過額調査書、減価償却超過額の当期認容額調査書、修繕費調査書、消耗品費調査書、雑費調査書、雑収入調査書、青色申告承認の取消しに伴う特別償却否認額調査書、寄付金の損金不算入額調査書、事業税認定損調査書

一  山崎勝義及び柳田進作成の検査てん末書

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官及び大蔵事務官(一三通)に対する各供述調書

判示冒頭の事実について

一  登記官佐藤嘉彦作成の登記簿謄本

判示第一の事実について

一  武田裕及び和田正之の大蔵事務官に対する各供述調書

判示第二及び第三の事実について

一  長井美恵子(同年四月二七日付け)、高瀬博充(二通)及び松原孝夫の大蔵事務官に対する各供述調書

判示第二の事実について

一  鈴木彰義の大蔵事務官に対する供述調書

判示第三の事実について

一  長井美恵子(同月二八日付け)、山田硯哉、斎正博(同年五月九日付け)、鈴木靖夫、小林眞、龍俊博、鈴木理雄及び永松暁生の大蔵事務官に対する各供述調書

一  羽吹長宏及び大濱崎勝弘作成の各答申書

一  検察事務官作成の同年二月二二日付け捜査報告書

一  被告人作成の提出書

(法令の適用)

一  罰条

各事業年度ごとに法人税法一五九条一項(被告人会社につき更に同法一六四条一項)

一  刑種の選択

被告人会社につき情状に鑑み同法一五九条二項を適用、被告人吉原につき所定刑中懲役刑を選択。

一  併合罪の処理

刑法四五条前段、被告人会社につき同法四八条二項により各罪所定の罰金額を合算、被告人吉原につき同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第三の罪の刑に法定の加重。

一  刑の執行猶予

被告人吉原につき同法二五条一項。

(量刑事由)

本件犯行は、被告人吉原が、被告人ミツワ興業株式会社の代表者として、昭和六〇年五月から同六三年五月までの三年間にわたり、同会社において納付すべき法人税額が合計一億三四九九万三四〇〇円であつたのに、これを二五六〇万八三〇〇円にすぎないと過少申告し、もつて合計一億〇九三八万五一〇〇円を脱税した、という事案であつて、その脱税額は高額であり、そのほ脱率も約八一パーセントと高率の極めて悪質な脱税事犯である。そして、その脱税の動機も、売上が伸びて利益が上がつているのに、実際の資金繰りが苦しいと感じ、将来の受注減や資金不足を心配して、景気の良いときに売上の一部を隠して内部留保しておこうとして、脱税に及んだというものであつて、また、ごく一部ではあるが、脱税分を自分で使うなどしており、誠に自己本位と言わざるを得ないものである。また、弁護人が本件脱税の原因の一因となつたと指摘する被告人吉原の経営哲学も、企業経営者の常識から外れた杜撰なものにすぎない。そして、その脱税手口も、売上の一部を除外して、簿外の普通預金に入れたり、或は、購入した機械等を簿外のものにするため、取引先に依頼して請求書、納品書等の名目を替えさせ、外注費、修繕費等として架空計上する等計画的、悪質なものである。加えて、国税当局の査察が開始されるや、被告人吉原は、虚偽の書類を作成して貰つた取引先に対し、国税当局の反面調査に際し虚偽の解答をするよう依頼したり、脱税分にあたる現金等を身内の家に隠すなどして、罪証隠滅工作をするなどして狡猾な面をみせている。

そうすると、現在、消費税の導入が極めて重大な社会問題となり、税の公平、公正な負担が強く叫ばれ、ことに業者に対しては誠実に納税義務を遵守することが求められている折、本件脱税は、もう一方の重要な税制度であり、納税者の倫理に信頼をおいて採用された法人税の申告納税制度を著しく踏み躪つたものとして、強くその刑事責任を問わざるを得ないところである。従つて、被告人吉原において、国税の査察の入つた当初はともあれ、その後は脱税の全貌を自白して、強く反省し、本税や重加算税も全部納付ずみであること、被告人らには、格別の前科前歴もなく、本件脱税がマスコミで取り上げられて、社会的制裁を受けていること、被告人会社においては、経理体制を改善し、再犯防止体制をとつたこと等を考慮しても、主文程度の刑は避けられない。

(求刑 被告人会社につき罰金三五〇〇万円、被告人吉原につき懲役一年二月)

よつて、主文のとおり判決する。

(裁判官 奥林潔)

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